マスカレイド

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Jun 17, 2019 14:12
マスカレイド

人は多くのペルソナを持つという。
ペルソナとは、その個人の性格や能力、外界に適応するための仮面(役割)などの意味を持つ。

皆さんは今、どんな仮面をつけているだろうか?
この世界は仮面を身に付けた沢山の人が集う仮面舞踏会。
それぞれが自分の仮面を見せ合う。そしてダンスをする。

さて、照明が落とされ、一か所にスポットライトが当てられた。
「私は仮面をつけることができなかった時期があります。」
一人の女性がダンス用の仮面を外すと、スポットライトの中へと一歩踏み出した。
仮面の喪失はアイデンティティの崩壊を意味する。使用頻度が高く、その仮面を信じようとする気持ちが大きい程、アイデンティティは深く広く壊れる。
さぁ、今日は彼女の告白を聞くとしよう。

「身を守っていたはずの仮面は、私の顔をしめつけ、骨を歪ませました。呼吸は浅く、仮面の下は血を流していましたが、私には他の仮面はありませんでした。その仮面のない世界は想像できませんでしたし、許されないことだと思っていました。
そして、ある日私は仮面を付けることができなくなりました。
落ちた仮面を拾い、何度も顔に当てました。何度も何度も。でもそれは叶わなかった。
私はついにそれを床にたたきつけました。
鏡を見た時、私は顔を失っていました。
仮面の下に素顔はなく、かさぶたをはがした後のようでした。
私は顔を失いましたが、自分の呼吸を感じることで、生きていることを確認しました。

でも、その頃は毎朝、目が覚めて自分の部屋の白い天井を見ると、今日も私として生きて行かなくてはいけないこと、そしてそれがずっと続く現実を受け入れるのに、数分を要しました。絶望が身を包みました。
足元の床が崩れて、今にも自分が落ちて行くような感覚につきまとわれました。
それからは新たな仮面を求めて彷徨いました。
長い長い時間、おぼつかない足取りで、もがきながらも命をつなぐ中で、そっと手を差し伸べてくれたいくつかの存在との出会いもありました。不確かな顔のままで温かな存在と触れ合いながら呼吸を続けました。

そして気がつけば自然と顔らしきものが現われていました。
今皆さんの目にしているこの顔が、素顔なのか仮面なのか、私にも分かりません。
心地よいかどうか?
私は結構気に入っています。
だいぶ前に失った仮面がわずかな痛みと共に、私の内側に存在していることに、気がつきました。そしてその痛みがあるお陰で、夢ではなかったことを再確認するのです。
苦痛と保護をもたらしたかつての仮面は、私を構成しているペルソナの一つとなりました。私は二度と表に出ることのない、このペルソナも含めて生きて行こうと思います。」

照明がホール全体を照らし、音楽が再開した。
彼女はダンス用の仮面をつけて戻って行った。

彼女の告白が仮面を外した人達によりそうことを願う。